夫が帰宅したことにも気付かずにだらしない寝顔を晒して深い眠りについていたことが大層恥ずかしく、ライナは何も言葉が出てこない。
赤くなっているライナを楽しそうに眺めつつ、イルミスは更に距離を詰めた。


「それよりも」


囁かれる声は、外から聞こえる小鳥のさえずりよりも小さいものだった。聞き逃すまいとライナは顔を上げて、続きの言葉を待った。


「早く顔を拭いていらっしゃい。ーーそんな無防備な格好でうろついていると、何が起こっても知りませんよ?」

「……」


窓から差し込む朝の光に照らされた自分の、起き抜けの姿を見下ろしたライナは、踵を返して一目散に寝室へと消えていったのだった。


ーー野いちごより更に赤い、カシグリーの実よりも頬を染めて。



終わり