「おはよう」

「おっ、おはようございます……!」


帰りは朝になると確かに昨日聞いていたのだ。夜通し働いた彼が疲れて帰ってきたときにゆっくり休めるよう、早起きして軽い食事を用意するつもりだったというのに。
ライナは、完全に寝坊してしまったのだとうなだれた。


「まだ寝ていてもよかったのですよ?」


そう言うイルミスは、カシグリーという鮮やかな赤い果物をミルクと混ぜているところだった。漂ってきた香りの出所であるこの実はそのままでも甘くて美味しいのだが、ミルクと混ぜることでまろやかで優しい味わいになる。まさにライナのような今目覚めたばかりの人にぴったりの朝食だ。

ライナの視線に気付くと、イルミスは嬉しそうにボウルの中を見せてきた。


「先ほどコーウェン殿の店の前を通りかかったら、支度を始めた夫人に会いまして。取れたてのカシグリーを沢山いただいてしまいました。せっかくなのでライナに朝食を作ろうかと」


セーラはイルミスのことをとても気に入っていて、こうしてよく食材を分けてくれるのだ。ライナへの母親に近い愛情とは違うようで、熱狂的な支援者のような類だとライナは感じている。大変ありがたいのだが、花でしか返せないライナにとってはお店が少し心配だ。


「ごめんなさい。イルミスさんは今までお仕事だったのに……」

「いえ、たまには私が。ライナはとても気持ちよさそうに眠っていましたから」


起こすのは忍びなくて、と微笑むイルミスを見て、ライナの顔は野いちごより赤くなった。裏を返せば、しっかりと寝顔を見られたということだ。