『ライナ、ライナーー』


夢の中で祖母が呼んでいる。記憶に残ったままの、優しい声だ。ライナはごろりと寝返りを打つ。


「んん……おばあちゃん……」

『早く起きないと、市場に遅れてしまうよ。朝食を食べないと、元気が出ないだろう?』


カチャカチャと食器の鳴る音が遠くで聞こえる。朝食の用意をしているようだ。


「うん、今起きるから……」


パンとミルクと、今朝はそれ以外にも何かあるのだろうか。甘くてよい香りが漂ってくる。


(いいにおい……って、えっ?!)


そこまで考えて、ライナはハッとした。
祖母はもういないのだ。


そうすると、この音の正体はーー。


勢いよく起きあがると、一気に覚醒したライナは慌てて居室へ駆けていく。

昨日は畑の区画を整理していたため、土を運んだり地面を掘ったりといつもより重労働だったのだ。疲れてつい寝過ぎてしまったと心から反省してしまう。


バタバタとライナの立てた物音に気が付いたイルミスは、手を止めてゆっくりと振り返った。