家の外へ出ると、日の高さがちょうど良い頃合いになっている。2人はミレーヌの屋敷へ向かって歩き出した。


「楽しみですね。もうすぐパンデルフィーに会えます」

「パンデルフィー? どういうことですか?」


パンデルフィーなら最近畑に増やしているはずなのに、とライナは首を傾げる。間近に迫ったイルミスの両親と対面する日に、花束にして贈ろうと考えているのだ。

質問には答えず、イルミスはライナの手をそっと持ち上げた。


「花祭りの日は、一瞬しか見られませんでしたから」


私のせいですが、と笑いを含んだ声がする。

隣を見上げると、泣きたくなるほど安心をくれる碧い目がある。イルミスはそのまま引き寄せて、ライナの手の甲に口付けをひとつ落とした。


「青いドレスを着た貴女は、まるでパンデルフィーの花びらのようだった。……本当に、花の精かと思いましたよ」

「〝魔女〟の間違いではなく?」

「これは弱りましたね……」


照れ隠しにライナが意地悪く言うと、イルミスは困ったように降参の言葉を口にした。
気まずそうに視線を逸らされたことが可笑しくてライナが思わず笑ってしまうと、つられてイルミスも笑った。

その笑い声に反応するかのように、前髪を揺らす程度の風が吹く。まるで、2人のこれからを祝福するかのような優しい風を受けて、ライナはそっと目を閉じた。


ーーこれから先のどんな未来も愛しい人と乗り越えていけるよう、強く願いを込めて。



終わり