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ーーその日は、良い意味でも悪い意味でも、ライナにとって忘れられない日となった。


「ふう。これでよし、と」


朝起きて身支度を整え、いつものように花の世話をして、夕食用に野菜も収穫しておいた。日陰に置いたカゴの中で、野菜たちがつやつやに輝いている。ライナは好物の瓜をひと撫でした。

イルミスはライナには隠しているが、どうやら瓜が得意ではないようだ。日頃の食事の様子から何となく気付いてしまったライナは、最近味付けに悩んでいる。薄味だと瓜の風味が全面に出てしまうし、かと言って濃くしてしまうと体に良くないだろう。しかし、そんな風に悩むのも楽しいものだ。


その日ライナは市場を休んで、ミレーヌの屋敷へ訪問する予定があった。ついにイルミスの生家へ正式に招待されたライナに、ミレーヌが服を貸してくれることになったからだ。ーーそれも、先日の花祭りと同じものを貸してくれるという。

イルミスに反対されたらどうしようと不安もあったが、話をするなり大賛成された。

そして『訪問前に、一度着て見せて欲しい』というイルミスたっての希望で、2人でミレーヌの所へ向かう予定になっている。


「少し喉が渇いたわ」


出かけるにはまだ早すぎるため、ライナが少し休憩しようとお茶の準備を始めたときだった。


ーーコンコン。


叩かれた扉を開けると、そこには約束よりも随分早くやってきたイルミスが立っていた。ライナは目を丸くしながら言う。


「イルミスさん、随分早かったのですね。一緒にお茶でもいかがですか?」