改めて結婚の話が現実味を帯びてきて、ライナは身の引き締まる気持ちだ。しかし、ひとつ思い出したことがある。


「イルミスさんの、お母様は……」


以前、流行病に罹ったのではなかったか。言いよどんでしまったがイルミスには伝わったようで、ひとつ頷きが返ってきた。


「ああ、すっかり言い忘れていましたね。母はあの後一命を取り留めまして。……ライナのパンデルフィーのお陰ですよ。ずっと母のそばで鮮やかに咲いていたそうですから。婚約したのがあの時の花を育てた方と知ったら、さぞ喜ぶことでしょう」


それはきっと、彼女の生きる力の強さの結果だとライナには分かっていたが、あまりにも嬉しそうに話すイルミスが愛しくて、思わず笑顔になっていた。


「さあ、そろそろ道草はやめて帰りましょうか。野苺のジャムが待っていますから」


再び歩き出したイルミスに置いて行かれないよう、ライナは小走りで隣に並んだ。ぼそぼそと小さい声で思いを伝える。


「私も森に嫌われないよう、イルミスさんのことを大事にします」

「ライナ。それでは本末転倒です」


ライナが言ったことが可笑しかったようで、イルミスは声を上げて笑った。


「……では、お互い思いやりましょう。いつまでもここで暮らしていけるように」


やがて見えてきた湖が、2人のこれからを応援するようにきらきらと水面を輝かせていた。