「この前こちらにお見えになったのは、イルミスさんと言う方でした」

「気安く名前を呼ばないで。貴女が呼んでいい名前ではないのよ」

「すみません……」


ミレーヌはいつもそうやって線引きをする。今に始まったことではないためライナはもう慣れっこだったが、どこか寂しく感じてしまっていた。


(私がもし花売りではなかったら、ミレーヌさんと仲良くなれたのかも)


そんな風に思いを巡らせているライナのことなど気にも留めず、ミレーヌは顎を上げて誇らしげに言う。


「お父様はとっても顔が広いの。騎士様とはよく晩餐会でお会いするわ」

「そう、なのですね……」


ミレーヌの発言はまるで異次元の話だ。言葉だけはかろうじて知っているが、ライナは〝晩餐会〟が具体的に何をする場なのかは全く知らない。


「でもどうして〝ここ〟だったのかしら。……私だったらもっと品揃えも質も良いお店を知っているのに」


ミレーヌはライナに聞こえるようにわざと大きな独り言を言いながら今度こそ立ち去った。