ライナはてっきり、別々に暮らすかイルミスの住む所へ移るかどちらかだと思っていた。市場へ花を売りに行くことも、結婚するまでの間のみ許されているものだと考えていたため、イルミスの発言に混乱する。


「貴女から、大事なものを奪ったりはしません」


はっきりと言い切るイルミスの言葉はとても嬉しく感動するものだが、聞いた途端にライナは心配になった。いつも自分のことは二の次にする、目の前の優しい人のことが。


「それではイルミスさんがーー」

「私はライナが楽しそうに花を育てている姿を見るのが好きなので。それに、私は女性より力もありますから、きっと農作業の役に立ちますよ」

「……」


イルミスは、運んでいるライナの仕事道具の入った荷車と大きなカゴを軽く持ち上げて笑った。いつも冗談を言うときと何ら変わらない言い方に、ライナは救われたような気がした。


「勿論、多少強引な話をしている自覚はあります。私たちにはまだ時間がありますから、少しずつ話を詰めていきましょう。……まずは、落ち着いたら私の両親に会って欲しい」

「ごっ、ご両親……!」

「心配は要りません。私が騎士団に入ることも許してくれたほどですから。結婚したい方がいると、既に伝えてあります」