イルミスの仕事は不規則で、夜通し任務に就いている日もある。毎回というわけではないが、まだ日が高いうちから休める時は、今日のように再び市場で働き始めたライナを迎えに来るのだ。


石畳の上で靴を鳴らしながら、イルミスが言う。


「聞けば、ライナはサクルを手作りしているそうですね。ミレーヌ殿〝には〟振る舞っているとか」

「う……それは……」


つい先日、ミレーヌの育てている花の様子を見に行った際の手土産のことだとライナはすぐに分かった。今まで何度か自作のサクルを食べてもらってはいたのだが、先日は「ライナの作ったサクルの中で一番美味しいわ!」と絶賛されたからだ。きっとその勢いでイルミスに話したのだろう。


「私の愛しい婚約者殿は、将来の夫を蔑ろにするのですね」

「そんなことは! イルミスさんが持ってきてくださるサクルとは、似ても似つかないので恥ずかしいのです……」


婚約者と呼ばれて嬉しいやら恥ずかしいやら。赤くなったライナが一生懸命誤解を解こうとしていると、大きな手で頭をひと撫でされた。


「少し意地悪を言い過ぎました。次は私にも食べさせてください」

「……はい」


サクルの袋に顔を埋める勢いで頷くライナの首元では、イルミスから贈られたリンディアの首飾りが揺れていた。