「お待たせしました!」


ライナは小走りでイルミスに近付いた。イルミスはライナの荷物を軽々と抱える。


「運びましょう」

「あっ! いえ、これは私が運びます!」


ライナは自分の荷物は自分で運ぶと意思表示をするため、イルミスの腕をくいくいと引いたが、イルミスはやんわりとライナの手を押し返した。


「ライナは代わりにこれを」


ガサッと大きな袋を渡されて、ライナは両腕で抱えた。見た目に反してはるかに軽い袋に顔を近付ける。くんくんと鼻を利かせてその正体に気付けば、満面の笑みをイルミスへ向けた。


「いいにおい! サクルですね」

「ええ、帰ったら一緒に食べましょう」

「この前セーラさんから沢山分けてもらった野苺で、ジャムを作ったんです。サクルと合うかしら」


きらきらと目を輝かせて語るライナを、イルミスは眩しそうに見つめた。そしてライナが隣へそっと並ぶのを見届けると、ゆっくり歩き出した。

ライナがイルミスの求婚を受けてから、少しずつではあるが2人の距離は縮まってきている。ライナが緊張せずにイルミスの隣を歩けるようになったことは大きな進歩だろう。


「……ごめんなさい、今までお仕事だったのにうるさくして。お疲れでしょう」

「うるさくなどありませんよ。ライナの声を聞いたら疲れが吹き飛びました」

「ふふ、嘘を言わないでください」


今日は代わりにイルミスが押している荷車の車輪が、カタカタと鳴っている。不規則だが何とも心地良い音と隣にいる存在が、お互いの心を満たしていった。