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「いらっしゃいませ。お花、いかがでしょうか」


ここはレンバート王国で一番大きなテトラ市場。毎日多くの人で賑わう、活気のある場所だ。
野菜や果物、新鮮な魚介類まで何でも揃う。


ーーもちろん心のこもった色とりどりの美しい花も。



「ライナ。遅くなりました」

「イルミスさん!」


今日の分を売り終えたライナが片付けをしていると、イルミスがやってきた。ライナの表情が、一層明るくなる。


「少し待っていてください。すぐに片付けますから!」

「私は逃げませんから。落ち着きなさい」


慌てて帰り支度を始めるライナを取り鎮めてはいるが、イルミスの口元は嬉しそうに口角が上がっている。


ライナは、再び市場で花を売り始めていた。かつて毎日通っていたこの場所は、もうひとつの家であるかのように肌に馴染んで落ち着くのだ。

かつて大きな溝が出来てしまっていたミレーヌとの関係はすこぶる良好だ。時々ライナの様子を見に来ては、こっそり花のことを勉強している姿がいじらしい。最近父であるクレトンのためにセーレンの花を育て始めたミレーヌは、密かにライナを師として仰いでいるようなのだ。「今日はつぼみが膨らんだ」「もうすぐ花が咲きそうだ」といった報告をライナはとても楽しみにしている。