「これで、負わなければいけない責任がまたひとつ増えました。ライナはもう、私と結婚するしかありません」

「……」

「冗談ですよ」


ライナは唇に手を当てたまま、何も言えずに固まった。イルミスはどこか楽しそうに、そんなライナの髪の毛を優しく梳いている。


「これだけは宣言しておきます。私は、決して責任を取ろうとして貴女に求婚している訳ではありません」


イルミスの言葉は、ライナにとって心底嬉しいものだった。こんな風に優しく温かく、そして真剣に思ってくれる人は、二度と現れないだろう。もっとも、ライナがイルミス以上に好きになる人が今後現れる可能性は無きに等しいのだが。


「その、私は、時々イルミスさんに会えるだけでいいのです……やはり身分の釣り合った方の方が」


ライナは、自分がイルミスの隣に立つことは難しいと知っていた。だからせめて、彼に新しい恋人が出来るまでの少しの間だけ、今のように時々会って話したり、共に食事をしたいと願っている。
恋情は挟まず、友人のように接してもらえるだけで幸せだと、自分の本心に何度もそう言い聞かせた。

イルミスは露骨に顔をしかめた。