「自分の好きな〝女性〟が心を込めて一生懸命育てたリンディアを、他の人に買われるのは耐えられない。そう、思ったのです」

「え……」

(今、私のことを女性って……)


何度も子ども扱いされていたライナは、些細な言い回しにも敏感に反応してしまう。ついうっかり言ってしまったかも知れないその言葉が、イルミスの本心なのだとしたら。

ライナの胸は締め付けられたように苦しくなった。だがそれは決して不快な苦しさではなく、喜びで胸がいっぱいになる苦しさだった。


「ライナは花売りだ。見知らぬ誰かのためにリンディアを育てるのは、当然のことだというのに、私はどうもライナのことになると冷静さを欠いてしまう」


イルミスは先ほどから自分を悪く言ってばかりだが、普段より幾分幼く見えるその空気を感じて、ライナは可笑しくなった。ふふ、と笑みが漏れると、不思議そうに碧い目がライナを見やる。


「実は、あのリンディアは、イルミスさんのことを思って育てていたのです。それを、私のことを思ったイルミスさんに買っていただけたことが、嬉しくて。りょ、両思いですね」

「……両思い」


間の抜けたようなイルミスの呟きが、かわいいやら面白いやらで、ライナは顔を赤らめたまま笑った。


「そんなに笑うことですか」


ぐいっとお茶を飲み、拗ねたように横を向いたイルミスの頬もうっすらと赤くなっている。そのまま立ち上がり、座っているライナの目の前まで歩み寄ると、片方の頬を包み込むように大きな手のひらが触れる。


「ひゃ」

「仕返しです」


今度はイルミスが笑っている。もう片方の手は、首飾りを握ったライナの両手の上に置かれた。


「でも、貴女の気持ちがその口からやっと聞けました。
ーーライナ、私と結婚してください」