「そう、ですか……では」


言葉が続かず、静寂が訪れる。イルミスは口にする内容を一瞬ためらった後、言葉を選ぶようにゆっくりとライナへ尋ねた。


「ああ、ええと。……ライナは、どこまで知っているのですか?」

「え?! ど、どこまで……い、イルミスさんが、私が怪我をしていないか見てくださり、セーラさんへ知らせてくださった、のですよね」

「……そうですね」


ぎこちないやり取りが続く。
イルミスにしては珍しくためらったり口ごもる様子が見られ、ライナはライナでいつも以上に動揺し焦っている。お互いが核心に触れたくても触れられず、果てしない回り道を歩き続けた。


「……私、ずっとセーラさんが偶然私を助けてくださったのだと思い違いをしていました。目を覚ました時、セーラさんが付いてくださっていたものですから」

「すぐに医者は呼んだのですが、私は仕事で戻らねばならず……。ライナの看病はコーウェン夫人が名乗り出てくれましたので、彼女にお願いすることになったのです」

「お医者様まで呼んでくださったのですか?!」


森の中でひとりひっそりと暮らしている、しがない花売りのためにすることではない。
ライナはそう思いイルミスを見たが、彼の目を見ると何も言えなかった。暗く、光を感じないその瞳は当時の心境を映し出しているようにすら思える。


「このようなことを口にするのは騎士として許されないのかも知れませんが……あの時は、本当に魔女がライナを傷付けたのかと思ってしまいました」