「ここに、偶然パンがあります」


テーブルの上に置いていた包みは、ライナには見覚えがないものだった。どうやらイルミスが持ってきたそれからは、ほどよく焼けた麦の香ばしい香りが漂っている。


「あの、それは……」

「最近街で流行っているパン屋だそうです。是非貴女と一緒に食べたいと思いまして」


そう悪戯っぽく笑うイルミスを、今度はライナが呆気にとられて見ている。渡されて中身を確認すると、丸くて柔らかそうなものや細長い固そうなものなど、様々な形のパンが入っていた。


「まさか貴女も同じことを考えていたとは……ふふ、お似合いの2人ですね」

「……」

「さあ、ライナも早く。せっかくのスープが冷めてしまいますよ」


ライナが〝お似合い〟に顔を真っ赤にして反応してしまい何も反論出来ずにいることをいいことに、イルミスは楽しそうにライナを急かす。


「あっ、待ってください!」

「待てません。早く席に着いて」


空腹をアピールするかのように大袈裟にお腹をさすってみせるイルミスを見て、ライナはバタバタと急いで支度をした。