「あの……」

「ん? どうしました? ライナも早くーー」

「ごめんなさい!」


突然の謝罪に、イルミスは呆気にとられてライナを見た。それまで何の前触れもなかったというのに、明らかに落ち込んでいて泣き出しそうな表情のライナに、イルミスはただ慌てた。


「ライナ、一体どうしたのですか」

「……パンを用意するのを忘れてしまいました」

「は……パン?」

「イルミスさんは、前にお腹がいっぱいにならなかったと話してくださいました。だから、今日は満腹になるまで食べて欲しいと思っていたのに、私、パンを買うのを忘れてしまって……」

「……」


イルミスは仕事で遅くなっても来てくれたのだ。自分とは比べものにならないほど沢山の決められた予定があるというのに、約束を果たそうとしてくれたことがライナは本当に嬉しく思う。


「せっかくスープはうまく作れたのに」


それなのに、自分はパンひとつ用意することができなかった。どうしてこう大事なところで失敗してしまうのだろうと、ライナは恥ずかしさと惨めさでいっぱいになり、俯いた。


「そんな顔を、しないで」


頭に乗せられた温もりを感じて少し顔を上げると、優しく細められた目と目が合った。座っているイルミスに見上げられる格好になり、その位置に戸惑ったライナは、揺れる前髪へと視線を移す。

ライナの頭からそっと手を外すと、イルミスはがさりと音を立てた。