「すみません、遅くなってしまいました」


こんばんは、とイルミスは優しく微笑むが、ライナはその顔を直視できずに思わず目を逸らした。何故なら、ちょうど彼を見上げると遥か後ろに少し欠けた月が雲もなく出ていて、その淡い光がイルミスの髪の毛を縁取っていたからだ。


「こんばんは……あ、あのっ、どうぞ中へ」


逆光で表情はよく分からないが、月に照らされて輪郭だけが浮き上がっている姿が妙に色っぽく感じてしまい、ライナは急かすようにイルミスを部屋の中へ招き入れた。


「どうしたのですか? そんなに慌てて」

「何でもないです!」


そんなライナを不思議そうに見やるイルミスに、「月の光を浴びた貴方が素敵でドキドキするから」などと言えそうもない。
そのまま彼を前と同じ席に座らせると、ライナはくるりと背中を向けてスープの盛り付けに入った。


「いい匂いですね」


イルミスの声が部屋に響く。
よく考えると、外よりも家の中で2人きりという状況の方が遥かにドキドキするのではないか。しかも自分が積極的に家へ迎えた格好になるのではないか。
そのことに今更気付いたライナは、カタカタと手元を震わせながらスープを掬った。


「ありがとう。とても美味しそうですね」


ライナが器を渡すと、イルミスは中を覗き込んで山盛りのキノコに笑っている。すぐにでも食べたそうにしている彼に、ライナはこれから酷なことを告げなければならない。