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「いい加減顔を上げて頂戴」

「すみませんでした。本当に……」

「もう! これ以上謝らないでと言っているでしょう?」

「でも……」

「謝罪なら騎士様から十分頂いたわ。ライナはいつも通りにしていなさいな」


翌朝、ライナはミレーヌの屋敷に謝罪のため訪れていた。せめてものお詫びにとお手製の小さな花束を携えて。

ミレーヌは花器に移された花を機嫌良く眺めている。水色や黄緑色の淡い色でまとめられた花々からは、どこか控えめな印象を受けた。


「……それよりも貴女、ひどい隈ね。どうしたの」


振り返ったミレーヌが、心配そうにライナへ尋ねる。指摘を受けたライナは顔を隠すようにさっと俯いた。


「昨日はなかなか眠れなかったものですから……」


小さな呟きを拾ったミレーヌはあら、と目を丸くする。


「騎士様、泊まっていかれたの?」

「ち、違います! その、色々とお話を聞かせてもらっていたのです!」

「なあんだ」


拍子抜けしたように呟くミレーヌに、ライナは何てことを言うのだと言わんばかりの非難の目を向けた。


「前にも言ったけれど、ライナにはもっと色気が必要だわ。やはり昨日は、最初のドレスを着るべきだったのよ」

「ミレーヌさん!」


その時、ごほんと咳払いの音が響く。そばに控えている使用人が、暗に静かにするよう求めているのだ。


「すみません……」


使用人の存在に我に返り、ライナは真っ赤になって身を小さくしている。その様子を見て小さく笑ったミレーヌは、辺りを気にして声の大きさを落とした。