「第二騎士団所属になったことで、市場に出入りするようになりました」

「第二騎士団は、主に街を守ることがお仕事なのですよね」


以前見回りに来ていた騎士にそう聞いていた。そのことを言うと、ひとつ頷きが返ってくる。


「そして、王からあの、花の依頼があったのです。〝花〟という言葉を聞いて、私はあの少女のことを思い出しました。まだあの場所で花を売っているようなら、彼女から買おうと。
話を聞いたのが昼近い頃でしたが、いてもたってもいられず、すぐに市場へ向かいました。急がなくてもいいと不思議がられたのですが」


思い出した自分の行動が滑稽だったのか、イルミスは喉の奥を鳴らして笑った。


「面影をたっぷり残していた女性があの時の少女であると、すぐに分かりました。花のような笑顔と、一生懸命なその姿に釘付けになり、しばらく眺めてしまったほどです。
そうしているうちに帰り支度を始めたので、慌てて話しかけました。
ーーまるでこれが、初対面であるかのような振りをして」

「すみません! 私、気が付かなくてーー」

「いえ、気にせずに。子どもの頃とは見た目が変わってしまっているのです、無理もありません。それに、たったの一度しか会ったことがないのですから」


ライナの言う〝初めて会った日〟がイルミスのそれに遅れてやっと出てきたことに慌てて謝罪しようとしたが、押し止められる。顔を上げたライナの目に飛び込んできたのは、嬉しそうに笑うイルミスの姿だった。


「ーーまたすぐに会いたくなってしまったのは、嬉しい誤算だった」


イルミスの思いが、ライナの胸にひとつずつ入り込んでくる。顔を赤くしたままだったが、ライナは夢のような時間を過ごした。