しかし、目の前の騎士団員は、押し黙って何かを考えている。お祈り用ではなく、もっと華やかな用途に使われる花の方が良かったのかもしれない。先程の喜びとは打って変わって、不安げにライナの瞳が揺れた。


「……質問の仕方を間違えました。私は、貴女の名前が知りたい」

「え」


時が止まったように、ライナはまばたきすらできなかった。そんなライナの様子を見て、彼ははっとしたのか咳払いをして言い直す。


「失礼、私はイルミスと言います。どうしても知りたくて、名乗る前に聞いてしまいました」


そう言って目を伏せる彼を見てもなお、ライナは固まっていた。ーー誰かに名前を聞かれたのは、実に数年振りのことだったのだ。


「わ、私はライナと申します」

「ライナ。……また、来ます」


辛うじて聞こえたであろう小さな声に目を細めて微笑むと、イルミスは青い花と共に立ち去った。


ーー爆発しそうなライナの心臓を置き去りにして。