「何故驚くのですか。あんなに分かりやすく迫っていたのに」

「せ、せまっ?!」

「……私の態度が不満ならば、これからはもっと分かりやすく示すことにします」


わざとらしくため息混じりにそう言うと、イルミスはライナの髪をすくって口付ける。突然の行動に慌てたライナは、勢いよくイルミスから髪の毛を取り返した。その様子を見て、イルミスは楽しげに笑っている。


「待ってくださいっ! 私はてっきり、からかわれているだけなのかと!」

「それは……初々しい反応を見せるライナがあまりにも可愛いので」

「……」


今まで散々悩んできたことは一体何だったのか。勘違いしたまま全てが終わってしまうところだったと、ライナは深く深く息を吐いた。

ーーいつの間にか、涙はすっかり引っ込んでしまっていた。


「イルミスさんが私を、その、気に入ってくれている理由が、分かりません……」


好きと言うにはまだ勇気が足りなく、目も合わせずぼそぼそと話すライナを愛しげに見つめながら、イルミスは問いかける。


「理由など。ーー初めて会った日のことを、ライナは覚えていますか」

「あ、あの、市場でお花を買っていただいた……」

「そうですね……ああ、いや。恐らくライナが言っている初めて会った日と、私の覚えている日は違います」

「え?」


ライナが驚きの表情を見せたが、そのままイルミスは続けた。


「ライナに初めて会ったのは、私がまだ騎士団に入る前の、とてもよく晴れた日でした」