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ライナが家へたどり着いた頃にはすっかり日も暮れて暗くなっていた。見慣れた家へ視線を向けると、暗がりに何かの気配を感じて立ち止まる。


(何かいる……?)


ここは森の中だ。人間以上に他の生き物が多く生息しているため、ライナもある程度は慣れている。しかし、今のライナはとても小動物とは思えないほどの大きな雰囲気を感じ取っており、全身に緊張感が走った。


(どうしよう、暗くてよく見えないわ。……も、もしかして魔女?!)


そう思った途端にライナの足がすくむ。
ミレーヌを脅かすために魔女の話はしたが、ライナ自身は完全に噂を信じている訳ではなかった。しかし、いたずらに名前を出したことが本当に魔女の怒りを買ってしまっていたとしたら、大変なことだ。

がさり、と音を立てて〝何か〟がライナの方へ近付いてくる。


「ひっ……!」


心の準備も何もできていないライナが驚いて小石につまずき、そのままぺたんと尻餅を着くと、腰が抜けてしまい立ち上がることすら困難になった。ゆっくりと近付く黒い影。ライナが恐ろしさの余りぎゅっと目をつむると、聞き慣れた声が降ってきた。


「ライナ、大丈夫ですか」


大好きなイルミスの声だ。いや、もう〝大好きだった〟とせねばならない。先ほど湖であんなに強く決意したばかりだというのに、本人を目の前にすると簡単に揺らぎそうになった。

ーーそこまで考え、ライナはハッとした。


「……ほ、本当に、イルミスさんですか?」


震えるライナの声に、イルミスは眉根を寄せる。


「……どういうことですか」

「イルミスさんは花祭りの警備をされているはずですし、もう私に用事なんて無いはずなのです。あ、貴方は、イルミスさんの姿をした、魔女ではないのですか?」

「……」