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最初は、市場から延びる華やかな石畳。
城下町から出ると少しずつ草の割合が多くなり、更に進むと木々が茂ってくる。
鬱蒼と言うよりは、厳かという表現の方が似合う静かな森の奥に、ライナの家はある。


通い慣れた、家までの道。


イルミスが立ち去ってすぐに、ライナは逃げるように会場を後にした。
ミレーヌに声をかけてから行こうと探したのだが、いざ声をかけようとしたところで思いとどまってしまった。

例の商人と楽しげに話し込んでいる姿が目に飛び込んできてしまったからだ。

結局、何も告げずに黙ったまま戻ってきてしまった。きっとミレーヌのことだ、ライナの様子を知ったらきっと自分の恋路など放って一緒に来てくれていたことだろう。

ミレーヌの使用人には帰る旨を伝え、歩いて屋敷へ戻った。そして身に付けていたものを全て返し、帰路へついたのだ。


ライナの歩く小道の近くに、野の花がちらちらと揺れている。横目でそれを見ながら、ライナはため息を吐いた。


(ーー私、何てことを)


自分が置かれている境遇について、勿論考えたことがないわけではない。ただ、ライナの周りの人たちは優しすぎた。

ーー少なくとも、ライナを勘違いさせるくらいには。

こうもまざまざと示されると、嫌でもはっきり思い知らされる。忘れないように過ごしていたはずなのだが、最近の浮かれた毎日でどこか麻痺していたに違いない。


(私……何か罰を、受けるのかしら)


ーーもし今後、花を育てられなくなってしまったら。

ーー大好きな人たちに、二度と会えなくなってしまったら。

そんな予感ばかりで、胸に渦巻く不安がどんどん大きくなる。足が鉛のように重く、ずるずると引きずるように歩いた。