再びの予期せぬ注文に、ライナは慌てた。ぎゅっと左胸を押さえながら、後ろにいくつか並べてあった花瓶へと振り返る。「人のを見ていたら羨ましくなってしまいました」と背中に話しかけられて、ドクドクと鼓動が早くなるのを感じた。


男性の部屋に飾る花。
これは想像に過ぎないが、剣や乗馬の稽古に様々な会議等、きっと心身共にくたびれるに違いない。

そう考えたライナが手に取ったのは、濃い青色をした、丸い花びらの花だった。この色には鎮静作用があると祖母から聞いたことがある。決して華美ではないが柔らかくもあり、そして凛としてもいるその花の雰囲気が、どことなく彼に似ていると思った。

ライナがその花ごと彼の方へ向き直る。騎士団員はライナの手元にある一輪をじっと見た後に、ゆっくり顔へと視線を上げた。目が合うと先程までの真剣な表情を崩して、優しく微笑んだ。


「貴女みたいな優しい花ですね」

「わ、たし?!」


素っ頓狂な声が飛び出てしまい、慌てて口に手を当てた。そんなライナの様子を見て、騎士団員は今度は声を漏らして笑う。


「この市場にある他のどの花屋より、大切に花を育てていると思いますよ」


胸の音がうるさくなる。
今までそんなこと、誰にも言われたことなかった。


「ありがとう、ございます……」


気恥ずかしくて消え入りそうな声になってしまう。例えお世辞だったとしても、構わない。祖母が生きていたら、きっと喜んでくれたことだろうとライナは震えながら思った。


「名前を聞いてもよろしいですか」

「はい。パンデルフィーという名前です。お祈りの際によく用いられます」


ライナは売りに出す花について、なるべく質問に答えられるように気を付けている。
お客によっては、詳細を知ってから買いたいという人もいるからだ。