「もちろん、愛していたわ。本当にね。私はその人の全部を知ったような顔をして、弱虫だの泣き虫だの、優柔不断だの女々しいだのと、よく冗談で言ったものよ。だけど、きっと臆病者だったのは私だったのね。」
「どうして?」
「その人は優しくて笑顔の綺麗な人だったわ。手が大きくてね、私をいつも包んでくれた。そして、私に愛してると幾度も言ってくれたわ。でも私には、私もよと返す勇気がなかったの。ありがとうと言うのが精一杯でね、あんなにも想っていたのに、胸がきゅうっと苦しくなるのよ。」
咲子おばあちゃんはじっと見つめていたベニバナから視線を逸らし、遠くの空を仰ぎました。