気が抜けるところがない……。
今まで愛咲の前では素の自分だった。
だけど、雪乃の両親の前で
そんな態度もとれるわけないし。
母さんや父さんにも…。
せめて、いうなら香鈴ぐらいだな。
『あら、おかえりなさいっ♪』
『お邪魔してるよ、隼斗くん』
雪乃の両親が俺に優しく微笑んでくれる。
だから、俺も同じように
無理やり作った笑顔でニコッと笑う。
『ゆっくりしていってください』
偽りの“片桐隼斗”を演じる。
愛想をふりまくるだけの地獄の時間。
『隼斗、今日は見に行けなくてごめんなさいね』
母さんがおぼんに人数分の
コーヒーを持ってきながらそういった。



