司はその女を睨んでいた瞳の警戒をほんの少しだけ解き始めた。

ひと月後には他の男と結婚する女なのだ

自分にはなんの関係もない

改めてみるその女は真紅の薔薇をイメージするドレスを着ており

何の表情も浮かべずその場に立ち尽くしているだけだった。

「結婚を控えている女の顔の幸せさが見えないようだが?」

ふとそんな言葉が口にでる。

「そんなことはありません。」

やはり女は冷静に答えるだけだった。

「結婚したらフランスに行きます。

紫藤司さんのお目に触れぬように今後は

どこの国のパーティ会場などでも気をつけます。」

「先ほどは突然すぎて説明が足りず

ご気分を害して申し訳ありませんでした。」

女は静かに頭を下げた。

美しい真紅の薔薇のドレスは

お辞儀の姿勢をしても美しかった。

いや、本当は女が美しいのだ!

白くきめ細かい陶器のような

両肩の肌を少しだけ司の目に触れさせて

「みかん」なんて名前のくせに


先ほど・・・

突然の怒りに合せて

この女の頬を叩いたのは自分だった。

泣くでも怒るでもなく、ただ叩かれて 

謝るのは自分の方ではないのか?

司はそう思いながらも謝ることができない性分だ。


気がつけばひと月だけの妹の美しい唇を奪っていた。

抗うでもなく拒むでもなく押し返すわけでもなく

その女は自分をただ受け入れた。

(司は意味が分からない・・・)

ただ美しい真紅の薔薇を手折るように

その女のドレスの中の中身を自分のモノにした。

まるで当たり前の自分のモノであるかのように・・・