紫藤佳代子(side)
 
早乙女佳澄さんが私を訪ねてきた。

「司さんは他の方と籍をお入れになったそうです。」

「なんですって」

「お母様の気に入ることは一切しない主義だからと・・・」

涙で濡れた瞳を向けて

「司さんは、私の過去、現在の男性交際まで調べ上げて

痛いところをどこまでもついてこられました。」

「私に関わることは今後一切ないから」と、

強くゆるがない態度で

忙しすぎる婚約者を甘く見ていた。

彼は最初に私に告げていた。

「結婚する女性にのみ触れるつもりです。」

指一本ですら触れることを許されていなかったのだ。

彼の母親が自分を気に入ってくれたので

すべてが許された気分になっていた。

自分と会うときは、いつだって秘書を数人連れて

まるで面会のようだった。

会社で仕事相手に会うように

その態度はいつだって一貫していた。

『大企業のトップ』

彼のその美しい容姿には、似合っていない

生真面目さなのだという姿勢を貫いていた。

彼の母親でさえ、忙しすぎる息子は

今はとても大切な時期だから

しばしの恋を容認するわと

甘い寛容に乗ってしまっていた。

自分の会社の秘書の佐藤とつかの間を

愉しみ、甘い誘惑に溺れていた。

彼はすべてを調べ上げ、それを一切許さない人だった。

彼と母親は似ていない

先ほど告げられたすべてを思い返しても

自分には何ひとつさえ許しては、いなかったのだ