次の日になる頃、電話が鳴った。急いででると、
「今、おまえの家の前。これから、出てこれる?」
「すぐに行くから」
急いで、でも、ゆっくり階段を降りる。両親が一階で寝ているから、起こせない。彼と付き合っていることはまだ両親には内緒なのだ。玄関を開けると、街頭に照らされて彼が立っていた。
「こっちに来て」
「今行くから」
「早く」
「もう、待ってよ」
怒りながら彼の前にいくと、ふたりを街頭の光が優しく包む。
「はい、これ」
そう言って彼は握りこぶしを差し出した。その下に、手を差し出すと、彼のこぶしがゆっくり開いて、私の手のひらには小さな小瓶と瓶に引っ掛けた指輪が光っていた。
「これ…は?」
「結婚指輪。俺のはここ」
そう言って、彼は左手を差し出す。その、薬指には指輪がしてあった。
「あとは、おまえの指に。手だして」
ゆっくり左手をあげると、彼は少し乱暴に手を取り、私の左の薬指に結婚指輪をはめて、そこにそっとキスをした。
「この瓶は、香水。飲食店だから指輪が出来ないだろ。だから、この香水をハンカチにかけてポケットに入れて、仕事中も俺を思い出して」

街頭に照らされて、ふたりだけの結婚式みたいに光の輪が広がって、空から雪がふわりと降ってきて、私は嬉しくて涙が頬を伝った。
「俺と結婚して。これだけは、俺から言いたかったから。返事聞かせて」

「一生離してやんない」