「携帯。」
変わらず速水さんはつづけた。
私はまだ心乱されてるよ、なんて冗談でも言えないから
「…何ですか?」
って平常心を装う。
「見たよ、昨日。」
軽い返事をしながら、その話もあったなって考想をめぐらす。
「内川から俺の連絡先貰ったの?」
「はい。」
内川くんから無理やり…は失礼か、
内川くんのご厚意で連絡を貰って、えっと悩みながら送った短い文章、確か3、4文ほど。
送ってからも返事来ないってうずうずしてたけど、こうして話せてる今はもう大した問題じゃないのかもだな。
結局彼に連絡を送った私の心内は、
ただ話したいってだけだったんだから。
それにしても何て送ったんだっけ、
確か―――あ…、
まずい。
「仕事立て込んでるとき、あんまりつつかない主義だから。」
「そういう理由でしたら、安心です。」
ぴしゃりと言い切り、
「速水さん。」
私は次の話題を提示しようとした。
早くはやく―――でも遅い。
彼は私の言葉を無視して声を上乗せすると、
「飲み会、来てほしかったんだ。」
って、意地悪く、ほくそ笑んでる。
あーもう一足遅かった。
寝首を掻かれるってこのことだ。
「うるさいですよ!」
精一杯の抵抗、恥ずかしくて困ってることを何とか私は隠したい。
「へー、来てほしかったんだ。」
そんな反応を楽しんで彼はくすりと口元を緩める。
「私、何も言ってないじゃないですか。」
「そういう表情してる。」
ハハハっと速水さんは笑った、お得意の見透かしを披露中らしい。
「さっきまでのおとなしい速水さんに戻ってくださいよ。」
そっぽを向いてむくれる私。
「避けてたの嫌いじゃないなら何だっけ?」
彼はわざとらしく首をかしげる。
止まぬ追及にかあーっと頬が上気した私は
「速水さんこそ、避けてたじゃないですか!」
答えるのを免れるようにムキになって尋ね返した。
「好かれてない人にしつこく関わっちゃだめだろ…。」
「まぁ、それはそうですけど。」
冷静な彼の答えに空気が一旦落ち着く。


