「あの、で。」
私は蛇口をきゅっと捻った。
気を少しでも紛らわせたくて。
「ん?」
彼の首辺りを見て私は言う。
顔を合わせたらとてもじゃないけど平気でいられなくなりそうなんだ。
「答えまだ聞いてないんですけど、
コーヒー缶とかして下さったの、速水さんでいいんですよね?」
「……。」
てっきり「うん。」とすぐに返事が返ってくるものと思っていた私は、この変な間に違和感しかわいてこない。
あ、れ。
本当に返事がなかなか…
「ファイル拾ったのは俺。以上。」
伏せていた頭をパっと私はあげた。
ここにきてまだ認めないの、速水さん…!
強情な彼に半ば呆れた私だが、速水さんは速水さんで、もう質問は受け付けませんとばかりに口を固く締めている。
話す気がないと悟った私は観念して、
「じゃぁ勝手に思っておきます。
絶対あれは速水さんだから。」
彼に向き直るのをやめ、流し台に体を預けた。
何で、そこまで話したがらないんだよ、
そんな恥ずかしいことでもないのにな。
不服気にちらりと盗み見て、
目線が合って、
一瞬何も考えれなくなって――私はまた、眼をそらす。
ずるいなぁ、見つめてくるとか。
男の色香ってやつに惑わされちゃうよ。


