「俺のこと嫌いじゃないわけ?」
ポタ。滴がまたシンクに落ちる。
小さく上下に頭を振った。
「…あ。」
「あ?」
一音だけ聞こえて。
続かなくなった言葉に何だろうと顔をあげると
「あ、せったー…。」
ため息交じりな声、その大きな手で顔を覆い隠している速水さん――。
「嫌われたんだと思った。」
言葉を発している今だって、彼は顔にやっている右手をどかそうとはしない。
見える彼の右瞳はそっぽを向いて、落ち着かない様子……
でもそのほうが都合がいい。
彼の好色染みたその瞳に今捕らえられたら、私どうしていいか分かんなくなってしまう。
「先日の飲み会の時に同じことをお話しさせていただこうと思ってたんですけど、
来てくださらなかったんで、呼び出すしかないなって…。」
「あぁ、うん。」
はっきりとしない返事。
「実は今日速水さんから聞く以前に、内川くんから飲み会来られなかった理由私伺ってたんですよ。」
「あ、そうなんだ。」
まただ…。
ちゃんと速水さん私の話聞いてくれてる?
「伺う前は私と顔合わるのが嫌で来なかったのかなってちょっと…、」
思ってました。という私の語尾はうやむやになった。
「嫌なんてあほか。」
うだつの上がらない返事をしていた速水さんが、今度はきっぱりと発したから。
「行こうとしてたよ。」
彼が手をどかして、隠していた表情が露わになる。
一瞬速水さんを盗み見みたものの、
「はい。」と頷く私はまだ視線が定まらない。
どきどきどきどき、胸が騒がしい。


