でも構わず私はつづけた。
「私、ずっと分かんなかったんです。
すぐにからかってくるし、意地悪ばっかりだし、」
「……告白してきた人がするようなことじゃない、から、何なんだこの人はって。
じゃぁあれは間違いだったのかなと思って、はっきりさせたくて
告白は何だったんですかって聞いても速水さんははぐらかすだけ。
好きか嫌いなのか全然分かんない。
速水さんのことどんな人かも全然知らない。
仕事中もつい意識してしまうし、支障をきたしそうだったから
これ以上速水さんのこと考えるのやめよう、関係を絶った方が楽だって……
だから私は避けてました。」
きゅっと水を止める音が響く。
「でも、気づいたんです。」
「気づいた?」
こくんと私は頷く。
「速水さんは意地悪で、全然優しくないけど、でもそれは隠してるだけで、
本当はすっごく優しい人だって…。」
「優しくないのに、優しいの?」
くすっと速水さんは意地悪そうに笑う。
「…優しくないのに、優しんです。」
「だけど。」
「だけど?」
速水さんは洗ったそれらを置いて私の方に向き直る。
「気づくのが、私は遅かったのかもしれません。」
私は彼の瞳から視線を床に落とした。
「避けたのは嫌いだからじゃないです。
今日呼び出させていただいたのも、それを言うためなのと、
ありがとうって伝えたかったから。
優しいことたくさんしてくれたのに、分からなくてごめんなさい。
避けて傷つけちゃってごめんなさい。」
「速水さん。
もう、嫌いになりましたか…?」
視線を上にあげることができず、
ただ
ポタ、ポタ
蛇口から水滴が落ちる音だけ、私は聞く。
5滴、いや10滴ほど耳にそれを入れて
「えっと。」
彼の声が、はいってきた。


