意地悪な片思い


「お前は本当真面目だからいろいろ手を焼くよ。」

「…そんなことないですよ。」

「あるね。」
 否定の言葉は間髪入れず。

「どういう所ですか。」
 たまらず私が聞くと、速水さんはそう言われると困るとクスリと笑う。

「やっぱりないんじゃないですか。」

「冗談。」
 彼のその言葉に「意地悪。」と言いそうになったけど今は思っとくだけにした。

「でも、少なくとも俺は頑張り屋だって市田のこと思ってる。
長嶋もいい子だってよく褒めてるよ、
お前のこと。」

「…やめてください。」
 嬉しかったけど、恥ずかしかった。

速水さんに言われてるんだから余計だ。
なんか、とっても、くすぐったい。

「たまにぽけーっとしてるけどな。」
 まぁその彼の一言で、恥ずかしい気持ちは吹っ飛んでいったけどね。


褒められてからかわれて、
コーヒーこぼす前の雰囲気はどこへやら
私も速水さんも普通に話す。

そんなとき速水さんは言ったんだ、

「長嶋によく見るように言ってんだけど、あいつもあれで結構不器用だから。」
 って。

やっぱりって思った。
見つけられていない優しさをまた見つけた。

「……長嶋さんにですか?」

「うん。たまに飲むから二人で。」

「隣の部署なのに、私のことを心配して?」

「……。」
 返ってこなくなった返事。
封切るように私は言った。

「速水さんなんでしょう?付箋もコーヒー缶も。

私のこと心配して、長嶋さんに声かけてくれていたみたいに、してくれてたんですよね?」

 速水さんは何もいわないでじゃーっと水で雑巾を洗う。

先ほどまでの饒舌が嘘みたいに、
何度言ってもそれが俺だと肯定してくれそうにない様子――、