「市田。」
「はい。」
「俺、怒ってないから。」
苦笑しながら言う彼、
「だからさ、そんな俺の機嫌うかがって無理に取り繕うとしなくていいよ。」
彼は一気にコーヒーを口に流しいれる。
私のは、まだ2口しか減っていない。
「4人で飲むとき、このままじゃ気まずいって思ったんだろ?お前のことだから。」
「…気まずくないですよ。」
負けじと言い返した私に、
「飲んだとき嫌そうにしてたくせに。」
苦そうに彼はつぶやく。
「あの、それは―――」
説明しようとした私。
「もういいよ。」
「え?」
脆く、呆気なく、私の言葉はプツリと閉ざされる。
「この間の飲み会行けなかったのはただ忙しかっただけ。
市田がいるいないは関係ない。
もうこの話は終わりな。」
口早にそう言うとぐしゃっと彼はコップを握りつぶした。
「飲みの付き合いの場に私情持ち込むほど、俺変な歳の食い方してないから。」
「だから、もう本当俺のこと気にするな。」
速水さんは笑って目を合わせてきた。
隣にいるのに、なんでだろうな。
目が合っているのになんでだろうな。
今は、遠い。
手を伸ばせば触れられるのに、すごく遠い。
そのコップが示す意味を私は知っているから、すごくすごく痛い。


