代わりに
「パソコンのピンクの付箋。」
そう呟いて
「私だってわかったんですか。」
話を新たに切り出した。
「…そうだね。」
「ちょっとだけ、来てくださらないかと。」
「どうして?」
私は俯く。
「怒って…らしてるのかなって。」
「怒ってはないよ。ただ…」
「ただ?」
「…いや、何でもない。」
速水さんはコーヒーを飲んだ。
ただ…、何だろう?
私も彼と同じことをする。
「最近、もしかして残業してる?」
速水さんが首を傾げる。
「あ、はい。ちょっとここのところ…。」
「無理すんな、帰りも危ないし寒いし風邪ひくぞ。」
私は頷いた。
「…っていっても市田は残業するんだろうけど。」
笑う速水さんにつられて私も微笑む。
本当に安心できる笑顔をする人だ…。
「速水さんは優しいですね。」
「…意地悪じゃなかった?」
一緒に仕事をしたとき、そう言っちゃったんだっけ。
彼にからかわれてばっかりだったから。
「あの時はそう思ってました。
でも、誤魔化しているだけなんですよね?」
彼は私の方を見なくなる。
「だいぶ前私のデスクに置いてあったコーヒー缶。
速水さん…でしょう?」
「ファイルの中にあった薄黄色の付箋も。」
「違うよ。」
誤魔化すように笑う彼に私はふるふると首を振った。
だけど彼は
「ファイルは落ちてたから拾っただけ。
コーヒー缶は長嶋だよ、俺なわけないだろ。」
と言って、私が予想した通り私を相手にしない。
「私、知ってます。
速水さんがどんな字、書くのか。
一緒に仕事させていただいたとき、書かれてた文字見えたから。」
珍しく私は強気で食ってかかった。
でも、彼はムキになっている私の気持ちを無視して、また話を逸らす。


