意地悪な片思い


「どうした?」
 先に口を開いたのは速水さんだった。
部屋の中にまで進み、コーヒーをコップに注ぎ始める。

「えっと…。」
 話したいことは山ほどあった。

でもありすぎて、どれから話していいか、どういう風に話したらいいか……。


「さ、サンドイッチ…食べたいなって。」

 言ってすぐ、ばかって自分に呟いた。
サンドイッチなんて話したいことから一番かけ離れている話題だ。

悔恨の念にかられる私とは裏腹に、
彼は可笑しそうに「うん、いいよ。1個?」なんていう。

私はこくんと一度頷いた。
別に欲しかったわけじゃないのに。


「3個ぐらい頼んでもいいんだよ?」

「そ、そんなに食べないですよ!」

「ふ~ん。」
 彼はまだ笑っている。

のっけからこの調子、彼の思い通りだ。
ちゃんと話せるかと先が思いやられる…。

でももしかして今も彼に救われちゃったのかもしんないな。心臓がさっきよりもおとなしくなってる。


「ファイル。」

「え?」

「何落としてんだよ。」
 コツンと彼の小突きが私の頭にふってきた。

「すみません…。」

「会議室入って足元に目立つ青いものが見えたからすぐ気づいた。」

「私のだって…ことですか?」
 私の横に同じように流し台にもたれた彼は頷く。

「あんな目立つ落とし物するようなおっちょこちょいは、
市田か内川ぐらいしか思いつかない。」

失敬な…とむくれながらも、
彼の心なしか綻んだ表情を見ると何もいえない。