「お疲れ様です。」
その瞬間、声をかけられた。
「お、お疲れ様です。」
動揺した私はつい声が淀んでしまった。
その人は速水さんじゃないのに。
挨拶を交わしたのは隣の部署の男の人だった。
私は彼に違和感を持たれないようコップにコーヒーを淹れ、流し台に寄りかかるとゆっくりそれを飲み始めた。
幸いなことに彼はもう出るところだったのか、2口ぐらい私がコーヒーを含んだところで「失礼します。」と出て行った。
ふはぁと私はたまらず深呼吸する。
バクバクバクバクさっきから心臓がうるさい。
時計はもう5分をすぎた。俯いた私の脳裏に、あの日がフラッシュバックしてくる。
飲み会が仕事でこれなかったみたいに今日も都合が悪かったら……。
30秒後、
それが杞憂に過ぎなかったことを私は知る。
「はあ。」
ため息が一つ。私のじゃない。
顔をあげた私は、びくっとして。
たまらず彼から目線を外した。
…いきなりため息つかなくたって。
藍色のスーツに小さく私はぶつくされた。


