そのメモを残したからといって、次の日彼と目が合うようになる…ということにはならなかった。
黄緑色のノートはもう立てらかしていない。
それでも私に不安はなかった。
その人はきっとメモに気づいて、それが私だと彼は分かって、そしてその時間に速水さんは来てくれるって。
彼の優しさに気づいたんだ、何も怖くない。
現に彼のパソコンの右下に、私が残したピンクの付箋はもうなかった。
8日 朝8時。
既に出勤していた私は、時計をちらりとのぞいてあと12時間で付箋に書いた時間だ、ってふと思った。
当然仕事は、個人の都合に合わせて量が減ったりなんてしてくんない。ましてやいつもより多いといっても過言ではないほどだ。
万が一にも行けないってことがないようにてきぱきと仕事に身を入れる。
そういえば何の因果か、内川くんと長嶋さんがお昼を外に食べに行く日は今日らしい。彼らに「市田もどう?」と誘われたけれど私は断った。
みっちり1時間、彼を待ちたかったので休憩をお昼にとりたくなかったんだ。
彼はどうやってその時間に来るのか知らない。
というか今だって彼の姿はデスクにないし……。
パチンと私は両頬を軽くたたいた。
仕事だ仕事だ!
悩むのはあと12時間後にとっておかないと。
そして、真っ暗闇の8時になった。
立ち上がって、深呼吸して、私は給湯室のドアを開けた。


