あった。
体を起こし、ぺたりと貼ってあった付箋を見つめる。仕事中には見なかったページだ、後ろの方だから分からなかったのだろう。
変なの、私薄い黄色の長細い付箋なんか持っていないのに。
どっかのが間違ってついちゃったのかな。
文字は何も書かれていない。私はページから付箋を剥いだ。その瞬間、粘着力がないところ、反転した文字が浮き上がってくる。
裏に書いてる?
ひっくり返すとただ短く。
『無理しないこと。』
それだけ。
仕事関係のメモじゃないから誰も困ったことにならず、とりあえずはよかったとして。
それで、これは誰が書いたんだろう。
一番考えられる長嶋さん…にしては渋い字だし、筆圧もちょっと濃い。文字の雰囲気から女の人の字では間違いなくない。
私は缶をちらっと一瞥した。
牛の笑みは変わらない。
ね、牛さん。
もし、……今私が考えていることが本当だったら、
ばかなことをしちゃったって私はひどく後悔することになるんだけど、
君はどう思う?
「……。」
当然牛は喋らない。
代わりに私は一度付箋の匂いをかいで。
カバンに入れている、スケジュール帳の後ろにある無地のページにそれをぺたりと貼る。
本当ばかなことをしたもんだ。
その証拠に、さっきまで香っていた苦い匂いが青いファイルからもうしなくなってる。


