意地悪な片思い


 カタンと私はエンターキーを押した。

「できた~。」
 小声で叫びながら、ぐっとそのまま両腕を天井へ突きだす。時計を確認するとも9時を迎えようかという時刻。

窓の外は真っ暗で、同じ部署内で残業している人といえば資料室に行っている長嶋さんぐらい。それ以外は他部署の人のあるデスクの明かりがついているだけで、その人も今はどこかへ行っているのか姿は見えなかった。

静かなオフィス。
黄緑色のノートもお役目御免で、数時間前からその姿をデスク上から消している。

私は机にうつ伏せると「はぁ。」と一呼吸ついた。

左ひじがじんとする。
隣に置いている青いファイルがぶつかっているからだ。

無意味に私はぱらぱらーっとファイルのページをぱらつかせた。苦い香りがする、そう思った。


ちょいと視線をファイルから上にやると、缶コーヒーに描かれている牛が私に笑いかけている。かわいいデザイン。そう思っていたけど今日の牛は私を嘲け笑っているよう―――

もし速水さんからなら。

私、どうするよ…。

牛は私をまたも見下す。牛の視線から逃れるようにもう一度ページをぱらつかせた。

あれ。
パラパラ――と最後の一枚が手から落ちる。

今なんかあった。
引っかかった私はまたページを全部手に取り、もっとゆっくりぱらつかせた。