「そうそう速水先輩、」
何食わぬ顔で彼はまた話を展開しだす。
「金曜日はお仕事で大変だったそうですよ。さっき聞きました。」
「……それ、本当?」
「はい、聞いたらそう言ってました。」
「そ、なんだ。」
私のことが嫌で来なかったわけじゃないんだ。
「じゃぁ、誘ったらまた来てくれるかな?」
『速水さんも今度は絶対一緒に。』
送った文章を私は思い出していた。
「勿論ですよ。」
「それに、速水先輩は優しいって市田さんこの間知ったばかりじゃないですか。」
飲み会の日、自分の駅が通り過ぎているにも関わらず、速水さんは私たちを送ってくれた。内川くんがいっているのはそのことに違いない。
「うん、だね。」
私は微笑み返えした。
「じゃぁ俺、もう今日はあがりなので。」
「そうなんだお疲れさまでした。」
私はもう少し頑張ります。
ふーっと息を吐きながらデスク上に広がった資料を見て気合いを再注入する。
「あれ?
市田さんもそのコーヒー好きなんだ。」
内川くんはデスクの隅に置いていたお昼飲んだコーヒー缶を見てそう言った。ファイルの件があってすっかり私は捨て忘れていた。
「うん、そうなの。
長嶋さんに残業中、前いただいたことがあって、それ以来これ好きになっちゃって。」
指で軽く缶を弾いて音を鳴らした。
「長嶋さんか。なんだ、てっきり。」
「てっきり?」
「先輩にいただいたのかと思っちゃいました。」
「速水さんに?なんで?」
そんなわけないでしょと私は笑いをこぼす。
「結構置いているところ少ないんで、速水先輩しか飲んでいる人見たことなかったんですけど。
長嶋さんも飲むんですね、知らなかった…。」
「速水さんからなわけないよ、上司でもないのに。」
それにあの日遅くまでいたのは私と長嶋さんと、少しの人だけで、
速水さんは―――速水さんは……あれ。
彼は帰ってたよ…ね?
「では市田さん、お疲れさまでした~。」
にこにこ彼は立ち去っていく。
もしかすると
今日も内川くんは爆弾を落としていったのかもしれない。


