コーヒーカップで半分顔を隠しながら隣に立つ速水さんをちらりと覗くと、彼はもぐもぐとサンドイッチを食べていた。

黄色い和紙にくるまれているそれは、すぐに市販のものではないと気付く。
あ、会社前のすごいおいしいって評判の奴だ…。

数量限定でなかなか食べれないっていう。
確か中には半熟卵と生ハム、耳つきのパンがふわふわ―――。


「……ほしい?」

「え?」

「そんなにじっと見てくるから。」

「いやいやいや!」
 私はあわてて視線を外すとゴクっとコーヒーを飲み込んだ。

時間をおいていてよかった、冷めていなかったら口も食道も今頃ただ事じゃない。


「俺あそこの馴染みだから、特別に取り置きしてもらってるんだけど。」
 速水さんはそういって、最後の一つのサンドイッチを袋から取り出すと、包装紙をくしゃくしゃと手で丸めてそれを差し出した。

「回収します…。」
 ボールのようにカチカチに固まった包装紙。

さっきまで掃除してたこともお見通しか……。


「忘れ物。」
 ゴミ袋に入れようとした私に、彼は間髪入れず声をかけた。
空いた私の左手を彼は掴むと、手のひらの中にサンドイッチを収める。


「いいですよ!食べてください!」
 あわてて断りを入れる私。差し出した反動で、中に挿まれている卵がぷりっと揺れる。

そんな私も、サンドイッチも彼は知らんぷり。新しくカップを取り出した。


「俺は珍しくないから食べてやって。
ゴミ回収とコーヒーのお礼だと思って。」
 コツンと彼は手に持ったカップを私が置いたカップに当てた。

コフッという変な音。


別にただ仕事しただけなのに……。
納得がいってない私を彼は気にする素振りもなく、私がさっき作ったばかりのコーヒーを注いだ。

彼はコーヒーを一口飲んで、顎をくいっと動かす。
食べてってことかな…。


「じゃぁ本当いただきますよ?後からだめとかなしですからね?」
くすりと速水さんは笑った。

「い、いただきます。」

「どうぞ。」
 彼の口元が緩む。