意地悪な片思い


「あっ、はい。」

 木野さんも、いたんだ。

「すみませんご使用中とは知らずに…。」
 てっきり速水さん一人だと思った。
半端に開いたドアの向こうに彼女は隠れていたらしかった。

「どうされたんですか?」
 花の香りがする、とってもいい匂いな。

「えっと、会議室に探し物がありまして。」
 喉に物でも詰まったように虚ろになる声。

速水さんの顔色を窺おうと思ったが、木野さんが前に立っていて、
先ほどまで見れていたはずの彼の姿をすっぽりと隠してしまっている。

「そうなんですか、
私たち今ここで話してて。」

 話って仕事だろうか私事だろうか。

「使用中だとは存じ上げず申し訳ないです。」
 彼女の優しそうな笑みに私も微笑み返した。

見れば見るほどきれいな人だった。
話すたびふわりと揺れる彼女の艶やかな髪の毛は、あの日くくり直した私のものでさえ適いそうにない。


もう戻ろう、邪魔しちゃ悪い。
ファイルは彼らが去ってから探しにいけばいいや。

そう思って引き返そうとした途端、

「市田さん何してるんですか?」
 後ろから元気な口調で私の名前を呼ぶ声がした。