それ以上、私はドアを開こうとはしなかった。まだ半分もドアは開いておらず、中をそろりと覗く不審な恰好をいまだとっているというのに。
速水さんだ、そう心でつぶやくだけ。
丸いテーブルの向こう、こちらを向いて座っている彼を私の瞳にただ映す。不思議と顔をみたら、会社に行きたくないと思うほどに気まずかった気持ちはどこかへ消えていた。
速水さんと話したいって思いの方が強くなっていた。
じっと見つめる私の視線に気づかないまま、手に持っている書類を眺めていた彼は、それからようやく視線を外して頭をぐいっと私の方にあげた。
「おーい何してんの……」
あ。
目があった。
相も変わらず、色っぽい目で私を捕らえてくれる。
「…市田。」
彼が小さく私の名前を呼んだ。
何でお前がここに、そう言いたげな表情をしながら。
二人で顔を見合わせたまま、
「どうしたのー?」
という高い声と、カツカツと床に響くヒールの音が3、4回聞こえたかと思うとドアノブを向こうから引っ張られ、私はぐいっと室内に数歩入りだされる。
「あれ?
えっと、市田さんですよね?」
私の目の前で、緩くウェーブがかかっている茶色い髪をさらっと揺らしながら、婉麗な顔がきょとんと可愛らしくとぼけた。


