意地悪な片思い


「あれ、ない…。」
 おかしいな。
間違いなく会議のときはあったんだから、無いってことないんだけど。

先ほどまでしていた別の案件の仕事が終わり、来年の企画書の作成に取り掛かろうとしているときだった。

例の青いファイルが必要な仕事だ、でもその肝心のファイルが山のようになったタワーから見つからない。

早く取り掛からないと終わらないのに――時計を見るとすでに3時を回っている。


「品川さん、今って会議室どこか使ってますかね…?」
 たまらず隣の席で仕事に向かっている彼女に声をかける。

比較的最近、うちの会社じゃ滅多にない他部署からの移動で一緒に仕事をしている、4つ年上の彼女。結婚している彼女は家庭があるので大抵帰りが早く、こうして仕事中ぐらいにしか話す機会がない。


「どうかな、ごめん分かんないな。
何の用事?」

「ファイル、会議室に忘れてきたかもしれなくて…。」

「そっか……。

ノックして入ってみたら?
重要な会議だったらドアに札かけるようになってるしさ。札なかったら大抵探させてくれるんじゃないかなぁ。

大丈夫だよ、ファイル探すだけなんだから時間くっちゃわないし、大丈夫。」

 彼女のおっとりした口調に、焦っていた私も気持ちに余裕が生まれてくる。

「じゃぁ行ってみます。」
 ぺこりと会釈して私は会議室に向かった。