意地悪な片思い


 速水さんがまた表示されるようになっちゃったの?
ところが名前を確認すると全く見当がつかない知らない人の名前がそこにある。

なんだ、たまにある悪戯のやつか。私はタップするとすぐにその人のブロックを完了させた。

一件落着、もういっか。
連絡した方がいいと思うけど、やーめた!
ポーンと私は携帯をベッドに投げ捨て、朝食の準備に取り掛かる。


 卵を一つ焼く前にハムを一枚ひいて、茶色の焦げ目をつけたらプルンとおいしそうに卵を落とす。時々卵から鳴る、空気が破裂する音が私の食欲を一気にかき立てた。

そのまま小皿に移して、昨日の夕飯の残りであるトマトを添え、茶碗にご飯を盛ると、「いただきまーす」と私は勢いよく食べ始める。

おいしい、幸せだ……!
パク、パク、白いご飯の2口目を口に入れたとき、私はベッドに投げ捨てた携帯を一瞥した。


「……やっちゃった。」

誰か知らない人をブロックしたとき、一つ私は重要なことに気が付いていた。
気が付いたからこそ、私は朝食づくりという名の逃避に勤しんだんだ…。

昨日は気が動転していて忘れていたこと、
でもとても大事なこと―――

追加したら、相手のところにも私の連絡先がおすすめされるようになるんだっけ。

それってつまり、


速水さんに、私が速水さんの連絡先を追加したってことがばれているってこと……。

ガクッとさがる私の頭。
私の脳内には、バッハのトッカータとフーガニ短調が流れてる。