「もうあがり?」
「あとちょっと残ってます。」
「9時来るしあがりな?
帰り寒いぞ。どうせ、あれだろ?」
長嶋さんは私の今抱えている仕事のことを話し始めた。
「あれは下の階の人たちに任せたらいんだからそんな気遣わんでも。」
「はい…、すみません。」
イベントの準備は特に私が手伝う義務はないのだが、自分が企画に携わっておきながら何もしないのはどうしてもいやで、少々自分の仕事を疎かにしがちだった。
「自分のが出きてなかったら結局だめですよね……ハハ。」
苦笑いしながら残っている大量の雑務を思い出す。
「まぁそういうのがお前のいいところだけどな。真面目で実直で、何もかんも背負い込む。」
ポンと長嶋さんは私の頭に手を置いた。
「もう少し俺とか他の人にだって頼っていんだからな。」
「…はい。」
長嶋さんって理想の上司だ。
こんな人徳のある人いないよ。
私の頭から離れていく長嶋さんの手。傷口に薬を塗ってジーンとするみたいに、彼のぬくもりの残像がしばらく残っていた。


