ばっと振り返った私は
黒のスーツがすぐに目に入って
「お、お疲れ様です。」
最初だけたじったけれどそのまま挨拶をした。
「まだコーヒー残ってるかな?オー残ってる残ってる!」
ご機嫌そうに彼が私の横に立つ。
「長嶋さん、今週残業ばかりですね。」
徒労感をねぎらう言葉を私はかけた。
「うんー、早く帰りたいけど…。」
こぽこぽっとコーヒーをコップに注ぐ音がする。長嶋さんは遠慮なしに残っていた全部を注ぎ切ってしまったようだ。
…速水さんならなんとなく少し残してそう。
意地の悪い印象ばかりの彼なのに、変なことでそう思った。


