「なに?」
「なんでもないです。」
見おろしてきた速水さんに私はぷいと顔を元に戻した。
変わらず私たちの口から吐く息はもわっと空中に白く広がる。
「心配して損した」
それに似た感情をついさっき抱いたはずなのに、速水さんの身を縮こめて立ってる姿を見ていると、手を突っ込んでいる私のコートのポケットにカイロがあったら、そう考えてしまう。
「…帰ったらちゃんと温まって下さいね。」
とりあえず今はこう言うことしかできない。
何なとなく照れくさくて速水さんの方を見ずに今度は言った。
彼は少し間をあけて口を開く。
「あほ。」
こっちは心配して…!
むすっとした顔で不満そうに彼を見上げると
「市田の方が赤鼻なくせに。」
ツン、と速水さんが私の鼻先をつついた。
「な!」
完全にふいをつかれた私は反射的に鼻を手で覆い隠す。じろりと速水さんは私をみおろしたまま。
「変な気遣い見せるからだよ。」
面白くなさそうにそう言うと、私がいる方とは真逆のほうに彼は視線を向けた。
別に体の心配するとか普通のことなのに、変って。
やっぱり心配するんじゃなかった。


